観察による歩行分析





















臨床での観察による歩行分析

観察による歩行分析は、関節の角度などを厳密に機械で測定する歩行分析とは違い、わずかな違い(わずかな関節の屈曲角度の変化や、歩幅の変化)を見分けることはできません。

ですが、訓練された術者によって、正常歩行からの逸脱を的確に見抜くことで場所を選ばず、特殊な機器がなくても歩行の評価ができるという利点があります。

すなわち、観察に必要なコストを抑えることで、複数回のこまめな評価を行っても患者の経済的負担が大きくならないことが特徴といえます。

厳密な測定ができないため、逆に微妙な変化であっても、気づけることはすべて観察することが大切になります。些細な変化が大きな疾患の徴候になっている可能性もあるためです。

また、観察による歩行分析を行う際には、必要に応じて徒手筋力検査(MMT)や関節可動域試、疼痛の評価を行うことで病態の理解に一層役立ちます。

観察による歩行分析では、まず観察を通して逸脱歩行を発見し、問題点を洗い出し、そこから可能性のある疾患を鑑別していきます。

さらに、治療が行われた場合では治療による成果の確認を行います。このとき、こまめに治療成果を評価することができ、観察による歩行分析の長所が活かされるといえます。

 

観察のポイント

観察による歩行分析は術者のノウハウ、技量による部分が多くあり、画一的なマニュアルを作成することには限度があるといえます。

そこで、以下では観察そのものというよりも、観察による歩行分析をひとつの診療システムとして見た場合に重視すべきポイントを述べています。

まず、患者側に事前に取り組んでもらうものがあります。筋・骨格の動きが分かりやすい服装をしてもらいます。

この分析の重要性を認識をしてもらうことで、普段通り歩こうという心構えとなり診断にも役立ちます。また、分析前に予めある程度の距離を歩いておいてもらうと、より病的部位が明らかになる場合も多いです。

実際の分析に入ると、立ち上がりから歩行、座り動作まで、全過程をつぶさに見なければなりません。

このとき、あらゆる角度から観察するのを忘れないようにします。見るべき点として、主なものに歩行速度、安定性、運動のなめらかさ・継続性、歩幅、歩隔、上肢の振り・動き、重心の位置などがあります。

場所としては、いつも病院内で行うのではなく、場合によっては喫茶店など患者がリラックスできる場所で行うこともあります。これは、不必要に緊張して自然な普段通りの歩行が妨げれるのを防ぐためです。

 

 

 

ぶん回し歩行





















ぶん回し歩行とは

ぶん回し歩行とは、痙性片麻痺歩行、あるいは円弧歩行とも呼ばれる歩き方で、歩行障害の一種とされています。「片麻痺」とは、一側の上肢と下肢が麻痺し、対側は正常である麻痺の様式です。「痙性」とは、中枢神経からの抑制が筋に及んでいないことを指します。

症状としては、筋トーヌスの増加、不随意な突然の筋収縮、深部腱反射亢進、痙攣などがあります。これは、脊髄損傷などで脳からの信号が途絶する場合(そのうちのさらに慢性期)に見られる病態で、中枢神経の障害で起こることが多いです(末梢神経系の障害では一般的には弛緩性麻痺となります)。

片麻痺では、健側の足では正常に歩けますが、患側の足は麻痺のために力が入らず、前に出すことができない状態になります。一方で、腰の筋肉などの体幹筋は、下肢と比べれば比較的温存されています。そのため、腰を回し、患側の下肢を振り回すようにして(伸展させ、外転させながら前方に出し)前に進みます。しかし、健常者ほどの筋力はないので「ぶん回し」という名称とは裏腹に患肢を振り出す動きは小さいです。

 

ぶん回し歩行をきたす疾患

上述の通り、片麻痺をきたす疾患ではぶん回し歩行が見られることがあります。

但し、片麻痺患者であれば必ず見られるものではありません。いくつか条件はありますが、例えば、腰周囲の筋肉を使うことから、近位筋に比べて遠位筋の方が障害と度合いが強いような場合にぶん回し歩行が認められるということになります。

片麻痺をきたす病態という意味では、錐体路障害がほとんどです。

錐体路とは、大脳の運動野・内包から大脳脚、脊髄の皮質脊髄路を通る遠心性ニューロンで、いわゆる運動神経を担っています。これが片側性に傷害されることで片麻痺を引き起こします。

具体的な疾患名として、脳血管障害、頚椎症性脊髄症、多発性硬化症などがあります。交通事故などによる片側性の脊髄損傷でも引き起こされます。

脳血管障害は、錐体路のいずれかの部分に出血をきたすことによってその部分が壊死することで起こります。特に、内包後脚は脳出血の好発部位であるために、 脳出血では片麻痺となることが多いです。

これらのどの疾患でも、ぶん回し歩行以外の症状も見られます。どの症状が見られるかは障害部位によって千差万別ですが、比較的分かりやすい、よくみられる症状としては上肢の屈曲があります。

片麻痺では上肢が屈曲、下肢が伸展するという特徴的な肢位を示すケースが多いためです。また、脳出血では構音障害や言語障害も広く見られます。

ぶん回し歩行をする患者はゆっくりであれば杖などを使用して自分で歩行できるため、特に言語障害などがある患者にとってはいかにリハビリによって歩行能力を高め、QOLを向上させられるかが大切となります。

 

 

 

高齢者の歩行





















高齢者にとっての歩行機能

歩行機能は誰にとっても大切です。具体的には歩行機能が低下すると活動性が低下することで様々な問題を引き起こすからです。

例えば家に閉じこもりがちになり、鬱状態になることもあります。外顆いと接する機会が減少すると認知機能も低下し、ますます歩行機能が低下する、という悪循環に陥っていきます。

さらには、歩行機能と余命に密接な関係があるのが高齢者の大きな特徴と言えます。なお、近年、普段歩いている速度よりも早足で歩くことによって、認知機能の低下が抑えられることも分かってきました。

実際、35000人の高齢者を平均12年間追跡した研究によって、歩行速度が0.1m/s上昇するごとに死亡のリスクが10%減少することが分かっています。

これは、歩行をすることで心臓、肺を含む循環器系や、筋骨格系の能力が維持されるためだと考えられます。

このように、歩行機能・歩行速度と生命予後・身体能力に有意な層間があることを反映して、高齢者の「フレイル」の1指標として歩行速度・歩行距離が採用されています。

 

高齢者の歩行の特徴

「フレイル」の指標としては歩行速度・距離が用いられていますが、加齢によってみられる歩行の変化は他にもあります。

高齢者の歩行の特徴として、「時間距離因子」「運動学的因子」「運動力学的因子」の3つに変化が現れることが知られています。

まず、「時間距離因子」の変化とは歩行速度、歩幅の減少や歩隔の増大などに加え、遊脚期が短くなるなど、歩行が不安定化することを指します。

この因子の変化は長さ、時間といった観点で図ることが出来るのが特徴です。「運動学的因子」の変化としては、接地時の足関節背屈角度低下や体幹の回旋の減少、股関節・膝関節の屈曲角度の減少などがあります。

すなわち、加齢とともに、歩行に伴う動きが小さくなり、あまり筋力を使わないようになると言えます。これは筋力低下や、関節可動域の低下によって引き起こされます。

さらに、「運動力学因子」の変化としては、接地期の衝撃吸収の減少や地面を蹴りだす際の前方推進力の減少があります。筋力低下や、歩行に必要な反射の減弱により生じています。

また、これらとは別に、高齢者では歩行時に用いる筋の部分、力を入れるタイミングに変化が見られ、これによって歩行時に無駄なエネルギーを消費しているとされています。

このように、高齢者の歩行には若年者とは差異があるため、その差異を念頭に置いて歩行訓練などを行っていく必要があります。

 

 

 

 

幼児の歩行





















幼児・小児の特徴

幼児の歩行、及びそのリハビリを考える上で最も大切なのが、小児は成長していく存在であるということです。そのため、後天的に一旦機能が失われても、成長に従って受傷・発症前よりも能力が上がることが多いです。

リハビリや、歩行アシスト器具の作成の場合でもこのことを念頭に置く必要があります。一方で、残念ながら先天性の障害はほとんどの場合、劇的に治癒することはありません。

この場合、運動機能の改善を目指すよりもQOLの向上を主眼とし、その子供に何ができるか、どのように社会に参加できるかを考える視点が求められます。

 

発達

小児の発達の大原則として、発達は①頭部から尾部へ(発達の頭尾律)、②近位から遠位へ、③粗大から微細へ、といった方向に進んでいきます。

また、運動発達は、中枢神経系の成熟と関連して規則的な順序で進みます。粗大運動の場合は頸定→寝返り→座位→立位→歩行と進行します。さらに、発達過程において時期を逸するとその後の正常発達に影響を及ぼす特別な時期があり、これを臨界期といいます。

千差万別ですが、幼児が歩く時期の目安として、「10ヶ月目につかまり立ちができる」というものがあります。

この時期を過ぎてもつかまり立ちができない場合、異常である可能性があります。ここで極めて重要なのが、原始反射の一つであるパラシュート反射です。

パラシュート反射は8ヶ月から出現して永続します(私達成人にも見られる反射です)。これは、腋窩を持ち、立位から急激に頭を床に向けると両手を伸ばし、手を開いて支えようとするというものです。

これが必要になるのは前によろめいた時です。前に転んだ場合、とっさに手が前に出て顔面から地面にぶつかることはありませんが、これはこのパラシュート反射が働いているためです。

この反射が起こらないと転んだ時に危険なので、パラシュート反射が出現してからつかまり立ちをするようになっています。

1歳6ヶ月になると、転ばずにひとりで歩行ができます。

このときには、ホッピング反応・ステッピング反応という反応が出現しています。ホッピング反応は立っている状態で腰が強く揺すられると、支持した下肢で飛び跳ねて元の位置に戻ろうとするもので、ステッピング反応とは立っている状態で体が前後左右に傾斜すると、外力が加わった方向に下肢を踏み出すし、倒れないようにする反応です。どちらも生涯持続します。

成長が進むと急速にできることが増えます。2歳では上手に走り、二足一段で階段昇降が可能になります。3歳では一足一段で階段を昇り、片足立ちが数秒できます。4歳になると、一足一段で階段を降りられるようになり、片足跳びも複数回できます。

 

 

リハビリでの歩行とその流れ





















リハビリの中で、実際に歩行がどのように組み込まれているのかを見ていきます。

 

予防的リハ

ここでは、重篤な疾患に至る前、特に「フレイル」状態にある虚弱高齢者の予防的リハをメインとしています。

高齢者や、ADLの低い者の場合、高負荷なトレーニングをしても、それに見合っただけの効果が得られないことが分かっています。それよりもむしろ、例えば80歳以上の、今後歩行困難に陥る可能性の高い高齢者であれば3METS程度の運動で十分に身体機能を向上させる効果があるとされています。

METSとは、運動などをした際に、安静時と比べて何倍のエネルギーを消費したかを示す指標です。3METSは、普通に1時間ほど散歩した場合のエネルギー消費量に当たります。

このことから、これらの高齢者では単純に1日1時間、歩く量を増やすだけで予防的リハの効果を得られることになります。

さらに、自分の足では満足に歩けない場合でも、歩行車などの歩行支援機器を用いて歩くことで予後が改善できることが分かっています。

 

治療的リハ

寝たきりの原因の第一位は脳卒中で、他にも転倒による骨折(特に大腿骨頭骨折)も寝たきりの原因となります。

これらの病態は、認知症による寝たきりなどとは違い、ある日から突然寝たきりの状態となるという特殊性があります。そのため、脳卒中や骨折では、急性期にいかに対応するかがその後寝たきりになるかどうかに関わるひとつ目の大きなポイントとなります。

このとき、「廃用症候群」という概念が重要になります。

廃用症候群とは、安静臥床や不活動状態が長期にわたり続くことにより、各臓器に生じる二次的機能障害のことを指します(具体的には拘縮、筋力低下・筋委縮、骨粗鬆症、褥瘡、体力低下、廃用性排尿・排便障害、認知症症状などがあります)。

二次的、というのは一次的機能障害を引き起こす疾病(脳卒中など)とは直接的な関係はないという意味です。つまり、廃用症候群はリハビリにより予防や最小限にとどめることが可能といえます。

治療的リハでは、急性期にどれだけ「絶対安静」の期間を短くできるか、そして、どれだけスムーズに回復期リハに移行できるかが焦点となります。

回復期リハでは、病状が安定した後、種々の歩行訓練などによって疾病罹患以前のADLを確保することを目指します。

 

維持的リハ

一方で、疾病から平均6ヶ月経過すると、機能回復があまり見込めなくなることが分かっています。それ故、6ヶ月までは回復期リハで機能回復を目指し、それ以降では「維持的リハ」によって、回復できた能力を維持することが肝要です。維持的リハでは、日常生活で歩行ができるような実践的な訓練、周囲の人に対しての介助方法の指導が含まれます。

 

 

 

リハビリと歩行訓練





















リハビリとは

リハビリ(医学的リハビリテーション)とは、運動障害の軽減を第一目標に、その診断、評価、治療を運動療法、温熱療法、装具療法などの物理的手段を用いて行うことであると定義されます。

そして、このリハビリは予防的リハ(疾病の発症を予防)、治療的リハ(疾病が発生した時の治療)、維持的リハ(退院した後に地域に戻った後の運動機能維持)に分けられています。

 

下肢のリハビリ

下肢の能力回復へのリハビリは、歩行訓練やエルゴメーター(交互に足を動かしペダルをこぐ機械)、負荷を併用したリハビリがあります。このとき、歩行訓練は段階的に行うことが大切です。

最初の段階では患者は軽い股関節屈曲くらいしかできず、膝伸展や足関節の動きはできないので、装具をつけて体重を支持してもらうとある程度歩けるようになります。

病状が改善し、もう少し股関節がよくなると膝の動きができ、患側の支持性が上がれば4点足の杖で歩けるようになります。ただし股関節の屈曲と膝の伸展が十分ではないので、踏み出すときに介助が必要です。

また、足首の動きはまだ出ていない(遠位部の回復は遅い)ので短下肢装具(ankle foot orthosis)を使用する必要があります。

また、上肢は皮質と下位ニューロンが1:1ですが、下肢は1つの上位のニューロンが複数の下位ニューロンを支配しており、パターン化された動きがプログラムされていることが知られています。

そのため、T7~T10の歩行中枢を刺激すると、足が揺れるという形で歩行パターンが現れます。これを利用して、エルゴメーターを用いたり、トレッドミル上で体を吊り上げたりして歩行リズムを形成するための訓練を行うこともあります。

 

具体的な流れ

罹患率も高い変形膝関節症患者に対する、人工膝関節全置換術を例にとって、実際の歩行訓練の流れを確認します。

まず、術前に前もって患者にリハビリ教育を施し、また機能評価を行っておきます。これが予防的リハに当たります。

手術が行われて以降の機能回復の過程が治療的リハとなります。術後2,3日で下肢の筋力強化訓練と、関節可動域訓練が行われます。

1週間前後で、装具なしの平行棒内立位訓練、歩行車歩行訓練が行われます。

平行棒内立位訓練とは、2本の平行な手すりを両手で持ち、上肢を支えて歩く訓練、歩行車歩行訓練とは歩行車というカートのようなものを押しながら歩く訓練です。

2週めに入ると、さらに一本杖歩行訓練や階段昇降訓練が追加され、3週め以降になると実際に自宅での生活(特に入浴)を想定した訓練を行うとともに、家族にも解除内容を指導していきます。

以上のように、大まかな基準を元に、患者個人の特性や病状の改善度合から、リハビリの進捗を調整していきます。

 

 

 

 

 

歩行訓練の方法





















いくつか代表的な歩行訓練を例示しています。

 

大腿四頭筋訓練 – 筋力増強訓練

障害部位や、筋力低下の程度に応じていくつかのパターンがあります。ひとつには仰臥位にて膝下に丸めたタオルなどを入れ、足関節を背屈位にして膝を伸展するものがあります。

より大きく筋を動かせるようになってくると、仰臥位で患肢を膝伸展挙上させる、SLRという訓練も可能になります(SLRは、他動的に行うことで脊椎ヘルニアなどの病変部位の同定に用いられることもあります)。

具体的には、健側の膝関節を屈曲させておき、患側足関節を背屈にして下肢を伸展したまま30°挙上させます。もちろんこの角度が小さいほど負荷が少ないので、患者の能力に応じて様子を見ながら進めていきます。

あるいは、椅子に座った状態で膝を進展するという訓練方法もあります。この方法で下腿を水平にまで持ち上げた場合、膝関節に疼痛を来すことがあります。そのため、(炎症性疾患であれば)軽度の患者向けの訓練であると言えます。

 

関節可動域訓練

炎症性疾患では、徐々に関節の可動域に制限が加わることが多いです。例えば膝関節が屈曲拘縮した場合、膝関節が曲がらないことを他の下肢の関節が代償することとなりその負担が増大します。そのために他の関節も痛むことになり、ますます歩行が困難になるという悪循環に陥ります。

そのため、関節可動域を減少させない訓練はそのメリットが大きいといえます。実際にこの訓練を行う場合、他動的に行うのであれば、まずは温熱療法を併用して疼痛を緩和した上、愛護的に屈曲、伸展、回旋運動を繰り返します。

 

運動プログラム

基本的な動きが可能な場合、実践的な運動を訓練します。

まず、①スクワットがあります。スクワットは股関節付近の筋力強化に適しており、足を肩幅に広げ、やや前傾になり腰を90°異常屈曲させないように気をつけて膝を屈伸させます。

他に基礎的な動きとして、②しこふみをすることもあります。しこふみによって筋力がつくとともに、骨に刺激が加わり、バランスを保つ能力もつくと考えられています。

両方の膝を軽く曲げて膝に手をつき、腰を軽く落とします。より力の必要なトレーニングとして、③四つ這いがあり、これは四つ這いになってバランスを取りながら一側の足を挙上させるものです。

腕、体幹、足の筋力が同時に鍛えられ、バランス感覚も改善させます。より実用的なトレーニングとして、④バランス歩行で細い部分を継ぎ脚したり、

⑤昇降動作によって10センチメートルほどの踏み台を昇り降りしたりします。

 

歩行訓練





















歩行訓練とは

ここでは、歩行訓練がどのようなものか、どういった際に行われるかを概説しています。

歩行訓練とは、文字通り歩行するために行われるトレーニングのことを指します。一般的にイメージされるものとしては、両手で手すりにつかまりながら、ゆっくりと歩くものがありますが、それ以外にも様々なトレーニングが歩行訓練に該当します。

特に、重度の疾患で足を動かすことすらままならない場合などは、まずは足の筋や関節を動かせるようにすることや、関節可動域を広げることから始める必要があります。

歩行訓練は行われる状況としては、脳卒中や脊髄損傷などが代表的です。他にも、関節リウマチの患者や下肢を切断した患者に行われることもあります。また、癌などの悪性腫瘍を持つ患者に対しても、歩行訓練が為される場合もあります。

 

歩行訓練の目的

歩行訓練をするにあたり、何を目的とするのかを明確に定める必要があります。これは、疾患・個人によって、達成できること、成し遂げたいことが様々あるからです。

例えば、関節リウマチの患者の場合、疫学的に中高年の女性が対象となる場合が多いです。ですので、もちろん一概には言えませんが、患者の希望が「家事をこなせること」となる場合が多いです。このような場合には、日常的な家事をこなすために必要な運動を考えて訓練を行うことになります。

また、前述のように悪性腫瘍の患者が歩行訓練を受けることもあります。これは、例えば骨転移により歩行が困難になったり、悪液質などによる筋力低下が起こったりした場合です。

ケースバイケースですが、一般的に余命が月単位の場合、まだ元気な人が多いので残された能力を利用して訓練を行い、 ADL 向上を図り、QOL の維持につなげることがメインとなります。

具体的には歩行訓練といった日常の基本動作能力の向上に加え、筋力低下・関節拘縮の改善や、浮腫改善、食べる・飲み込むといった栄養摂取手段の確立、また、在宅で治療される方はそれに対するアドバイス等を積極的に行います。

一方で、余命が週・日単位の場合、全身状態が悪化し動けない場合が多いので、QOL を最低限維持できるように努める事がメインとなります。

具体的には疼痛緩和、浮腫などの症状の緩和、呼吸苦の緩和、日常会話での心理支持などを行います。

ひとりの患者でも、目的が変化し歩行訓練の有無が変わることもありえます。ですので、歩行訓練に際しては、自らの考え、目標を押し付けるのではなく、患者個人に即した対応をとることが最も重要となります。

 

 

事故・病気で急に歩けなくなったら…  歩行と生活





















毎日どれくらい歩いていますか?

一版の方が、毎日歩かれている時間は平均してどの程度でしょうか。移動はすべて車でほとんど歩かない方、毎日の買い物や、外回りなどでずっと歩かれている方、健康のためにウォーキングをされている方など、様々だと思います。

厚生労働の調べでは、1日の平均の歩数は男性で7000歩(約70分)、女性で6000歩(約60分)です。ということは1日に1時間近くも歩いているということになります。ですが、一方で、この平均歩数はこの10年間で、ほぼ一貫して減り続けています。特に、その減少量は都市部よりも地方で顕著だということも分かっています(都市部は目的地から駅までの移動で歩く一方、地方では自動車での移動が普及したためです)。そして、歩数と健康の間には、密接な関係があることが近年分かってきました。

 

歩くことの大切さ

1日1時間以上歩いている人は、1時間未満しか歩いていない人より、医療費が15%も低いことが分かっています。1日の歩く時間が少し変わるだけで、医療費が大きく変わってしまと言えます。

逆に言えば、毎日少しだけ、歩く時間を伸ばすだけで健康になるということになります。厚生労働省も、「健康日本21」という政策で1日1000歩多く歩くことを目標に掲げています。ですので、現在健康で歩ける方は少しでもいいので長く歩く、という意識が大切になってきます。

 

歩けなくなる原因

一方で、病気や事故によって、歩くのが難しくなってしまう方もおられます。「歩行」という行為は複雑で、体中の様々な能力を、無意識のうちに使っています(例えば、歩行に必要な筋は数十に登ります)。これらのどこが障害を受けても、歩けなくなる可能性があります。

交通事故もそうですが、例えば脳梗塞や脳出血などは歩けなくなる原因になります(病変部位が運動野や内方・錐体路系に一致する場合)。足腰や、体幹の筋力が低下することでも歩けなくなります。他にも、足の深部感覚が麻痺するとバランスが取れなくなりますし、前庭・半規管の異常で平衡感覚がおかしくなってもまっすぐに歩くことができなくなります。また、症状が進むと、関節リウマチ、糖尿病などでも歩けなくなります。

このように、一口に「歩けない」といってもその理由は様々で、原因に応じて適切な治療・リハビリが必要になってきます。

 

歩けなくなると…

リハビリによって歩く能力が改善できる場合、積極的にリハビリを行う必要があります。というのも、歩けなくなると、たくさんの健康上のトラブルを抱えることになるからです。

歩けないことそのものにより生活に支障が出るというのはもちろん、歩けなくなると認知機能が低下し、認知症が進みやすくなります。また、足の血管に血の塊ができやすくなり、それが肺で詰まることで呼吸ができなくなってしまうこともあります。他にも歩けないことで引き起こされる病気は多くあります。

そのため、歩けなくなる前に病気を食い止める・歩けなくなってもリハビリで歩けるようにする、というのが極めて大切になります。

 

歩く速さと病気





















健康な人の歩くスピード

健康な人は、だいたい1分間に80から90メートル歩くと言われています(年齢・性別により変化します)。そして、病気により、この歩行速度は遅くなったり、速くなったりします。また、早足で歩くことで健康を保つこともできます。

 

歩行速度と健康 ―高齢者の「フレイル」とは

現在では、元気な高齢者の方もたくさんおられます。ですがどんなに健康な方でも、徐々に、段々と体が弱っていきます。しかし、もちろんこれは何か特定の病気にかかっているわけではありません。このように、年をとったために体全体の機能が低下していくことを「フレイル」(frailty: 虚弱)と呼びます。

「フレイル」とは、高齢期に様々な要因が関与して生じ、多臓器に亙り生理的予備能が低下するためにストレスに対する脆弱性が増加し、障害・施設入所・死亡などを起こしやすい病態を言います。別の言い方をすると、「フレイル」は健康状態と、病気・怪我で体の機能に障害を負っている状態の中間状態であると考えられます。

では、具体的にどういった場合を「フレイル」と言うのでしょうか。フレイルは比較的最近できた考え方なのですが、日本では①体重減少、②活動量の低下、③疲れやすさ、④握力の低下、そして⑤歩行速度の低下の5つからフレイルかどうかを判断しています。そして、この5つの中でも歩行速度の低下が、将来的な要介護の必要性を最も正確に表していることが明らかになってきました(およそ20%歩くスピードが遅くなると「歩行速度低下」と判断されます)。

このことからも、歩行速度と健康とが、密接に関わっていることがわかります。

さらに、最近では、意図的に早歩きを心がけることで健康になるという研究結果もあります。例えば糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞、大腸がんが予防できると考えられています。

 

歩行速度が変化する病気

歩行速度が変化する病気もあります。まず、足腰の筋力が低下する場合があります。他にも、脊柱管狭窄症(脊椎ヘルニアなどが進行し、脊髄が圧迫される病気)などでは、「間欠性跛行」(かんけつせいはこう)と言って、少し歩いては休んで、しばらく休んだらまた歩き出す、というのを繰り返すようになります。さらに、うつ病でも歩行速度は遅くなります。

珍しいですが、パーキンソン病等、歩行速度が速くなる病気もあります。パーキンソン病では、はじめの一歩は踏み出しにくくなりますが、逆に一旦歩き出すとストップできず、どんどんと加速していきます(突進現象)。

このように、歩く速さの変化する病気は様々で、歩行速度だけを見ても分かることが多くあります。